京都の親父は70歳。
定年を迎えてからしばらくは家でじっとしている生活をしていたが、
いつからかさかんに庭に出て土をいじるようになった。
来る日も来る日も庭の手入れに精を出し、木を剪定し、草を抜いた。
庭はもともと日本庭園風なのだが、ある日実家に帰ってみると、
日本庭園を背景にした畑と化していて、
ナスやきゅうりが燈籠の横でぼろんぼろん実っていた。
自分の家の庭だけでは飽き足らず、次は近所に進出しはじめた。
隣の木を切ってあげたり、採れた柿を配ったり、神社の手伝いに行ったり・・・
もともと社交的な性格なので、いろいろなお返しをもらったり、近所のこどもが遊びに来たり。
去年からは知り合いとふたり連れ立って
琵琶湖疎水に沿って菜の花を植えはじめた。
毎日毎日寒風吹く疎水の水際の固い土を掘り起こし、菜の花の道を少しずつ延ばしていく。
その様子は何かにとり憑かれたようにも見えた。
そして春になり・・・

桜は満開となり、競うように菜の花もいっせいに開花し、
その場所は通りがかった花見客やこの先の神社に行く途中の人、カメラを持った人たちが続々と流れ込んでくるお花見スポットとなっていた。
今日お昼過ぎに見に行くとそこにはいままでの記憶にはないくらい大勢の人が集まってお弁当を広げていた。
育った菜の花がごっそり盗まれたり、人気の証しのような現象も起きた。
京都のテレビにもその景色が映し出され、
それを見た親父もまんざらではない様子でつぶやく。
「おう、俺の植えた菜の花がテレビに映っとる・・・」
きっと花咲か爺さんのような面映い心持ちではないかと思うのである。
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