ぼくはこんなひととすれ違いました。

私の家のすぐ近くには芦花公園があり、環状八号線を渡ってすぐなのに中に入ってしまうと竹林や雑木林が多くあり、武蔵野の雰囲気に包まれる。
その敷地の一部にひっそりと明治、大正期の文豪徳富盧花が後半生を過ごした住まいや、蘆花夫妻のお墓がある。
先日お昼過ぎの暖かい時間にぶらぶらと散歩をしていると
向こうから老人ホームなのだろうおじいさんおばあさんの集団がやってきた。
きれいな白髪のひとが多く、車椅子のひともいれば杖で歩いているひともいる。
世田谷らしいどことなく上品な一団である。
その一団とは丁度お墓の入り口あたりで遭遇したのだが、
すれ違った直後、ひとりのおじいさんが大きな声でこう言った。
「お墓に入りたあい!」
どきりとして思わず振り返ると
みんな「あは、あははは」
と楽しそうに笑っていた。
お年寄りたちにとって死の話題はふわりと軽い日常のものなのか、
しばらくはそのセリフのリフレインが頭の中で鳴り止まなかった小春日和の午後でござりました。
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